かつて、富山駅から列車が旅立つ時、拡声器からは物哀しい旋律の「こきりこ」が流れ始め、ホーム全体が旅人たちを名残惜しむかの様な雰囲気に包まれたものです。

感傷的な気持ちになったのは、旅人たちも同じだったのではないでしょうか。様々な理由で富山駅から旅立つこととなった人たち。「こきりこ」の旋律は、ある人にとっては車窓越しに聴こえる旅先富山の名残であったり、またある人にとっては故郷富山を絶ち切る最後の瞬間の囁きだったのかもしれません。

そんな富山駅の「こきりこ」も、安全対策を考慮してのことか、いつ間にか北陸本線共通の発車音に取って代わられることとなりました。

発車メロディーは、駅を訪れた人に聴覚からその地のイメージを与える重要な役割を果たしていますが、北陸新幹線の新駅でも、新たに発車メロディーが採用されました。

新規に作曲した発車メロディーが多い中、目を引くのは、古くからの童謡「春よ来い」を採用した糸魚川駅です。深い雪に閉ざされる糸魚川の方々の春を待ちわびる気持ちを、旅人とE7系に問いかけるかのように、今日も新幹線のホームに流れています。実際に、この地にやって来る少し遅い春は、本当に素晴らしい景色が広がるので、「春よ来い」は旅人の願いでもあるかもしれません。

作者相馬御風は糸魚川市出身。早稲田の校歌である「都の西北」を作詞したことでも有名ですが、古事記の記述から姫川における翡翠(ヒスイ)の産出を推測したという業績があります。まさに、日本海ひすいラインの中心駅としても相応しい発車メロディーです。

地域の方々にも愛され、今後も未来永劫歌い継がれる「春よ来い」ですが、富山県内の新駅でも、このような可能性を秘めた歌が発車メロディーとして採用されました。

黒部宇奈月温泉駅の発車メロディー、「煌(きらめき) 水の都」がそれです。

作者は富山市在住の高原兄氏。地元のテレビ、ラジオを中心に活躍されている方ですが、作曲では数年前の「羞恥心」を筆頭に全国的にも活躍されています。

この歌は、黒部市を特集した地元局製作のテレビ番組のエンディングとして作られたものです。よって、発車メロディーとして採用されることは想定されていませんでした。

歌い手は、神奈川県出身の歌手Tomomi。もともと「お父様の御家業」の関係で富山に馴染みがあった方なのですが、地元の銀行のCMソングを歌ったことがきっかけで、高原氏から多くの楽曲の提供を受けています。

地元局の企画で音楽の専門家にこの曲を聴かせたところ「ボーカルの女性の声域の限界を半音超えている部分に無理がある」と指摘。高原氏は「あえてそうした。黒部というふるさとをさわやかに歌いたくはなかった。黒部峡谷にしろ富山には厳しい自然がたくさんある。そういうところで人々が日常の生活を送る、それが富山。」と解説。

また、新駅開業のイベントとして、黒部市民500人がこの歌を大合唱するという企画があったのですが、そのリハーサル時には、「きれいなことだけじゃない 辛いこと泣いたことがあったから今の黒部があるんだ。」と作詞に込めた思いを語られていました。

生きている中でしか歌は生まれてこないと語る高原氏。黒部宇奈月温泉駅の発車メロディーは富山に日々生きる高原氏の作曲だからこそ我々の心に響くのでしょう。東京の音楽プロデューサーだったら、これほど琴線に触れる旋律は出てこなかったかもしれません。(実際に氏は、家業である電気工事業の経営者として、自らも富山の現場にでていらっしゃいます。)

この歌はまさに新川地区の地謡として、歌い継がれることでしょう。

市民500人による大合唱は地元局でも生中継されましたが、まさに感動の嵐でした。(高原氏自身も号泣)
      (c) KNB

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きらめいていますか きらめきませんか

ふるさとが ふるさとが 笑ってる
(煌 水の都 より)

そんな今日も、黒部宇奈月駅は、「きらめき」で旅人を励まし続けています。

とやどこからの提案

発車メロディーが良かったら、今度はTomomiさんの歌も聞いてあげてください。本当にいい歌です。